妖魔04~聖域~
鞄を避けると、すでに装備した短刀が届く範囲に近づいていた。

「あっち向いて」

振り下げられる短刀に向って、能力を使おうとした。

同時に女の目が赤に変わる。

危機感を覚え、能力行使を中断して、燕を引きずりながらサイドに避ける。

燕が邪魔で上手く避けられなかったらしく、胸に切り傷が出来ていた。

接近している以上は、チャンスを逃すつもりはないようだ。

横に振り回しながら、命を狙ってくる。

相手は場所がどこであれ、自分が定めた任務は遂行するつもりだ。

起死回生を狙うためには、前に進むしかない。

後ろに退けば、燕と共倒れになってしまう。

俺に退却はない。

戦に女も男もない。

生意気な女をぶちのめす。

相手を敵だと認識した以上は、危害を加える者として扱わなければならない。

話し合いの道は存在しない。

今の状況が証明している。

「狭い場所の割りには避ける様はネズミみたいね。存在は溝鼠以下だけどね」

「お前の得物の使い方が下手糞なだけだ」

女の短刀の速度は並じゃない。

一瞬でも気を許せば、胸の奥にある生命を消される。

今、形勢を有利にする能力が使えないのは解った。

女が紅い目に変化した瞬間、親父の能力でもあるニオイは消えてしまったからだ。

必要はない。

退魔師など取るに足らないと、自分で言ったのだ。

証明させるためには、能力が使えなくても女を叩き伏せるしかない。
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