妖魔04~聖域~
優しい笑みを浮かべていたように思えたのは俺だけか。

お吟さんの心遣いに感謝しながら、神殿から出て行く。

「ゆっくり話そうと思ってたのに、悪いな」

「自分の生まれた土地の空気を心行くまで吸うてくるが良い」

龍姫もやる事には賛同してくれているみたいだ。

一人になって確かめたかった場所へ急ぐ。

ビルを出て学校まで戻ってくると、十九時になっている。

辺りは暗い闇に覆われているが、心地のいい風が吹いていた。

目的の場所はそれほど遠く感じず、誰かと会うことなく辿りつく。

「久々だな」

見ているだけで涙腺が緩んできそうだ。

自分と共に歴史を刻んだ家の近くに立つと心が温かくなる。

指先で触れた看板に書いてあるのは『葉桜』の文字。

「俺の、家だ」

目の前がかすんで見えてくる。

泣いている。

何年も帰ってこなかった自分の家を見ていると、泣けてくる。

郁乃母さんや千鶴の思い出が詰まった家。

子供の頃から住んでいた家。

記憶がないにしろ、千鶴には悪い事をした。

俺がいなくなれば、家にいるのは子鉄と二人だ。

「ゴメン」

姿の見えない千鶴に謝る。

俺は家の中に入る事は出来ない。

我が家だとしても、千鶴に俺の記憶がない以上は他人の家になる。
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