妖魔04~聖域~
「何か用ですか?」

背後の声。

俺と血の繋がりを持った家族。

驚きが隠せない。

俺は涙をふき取って、冷静になる。

今のままだと不審者として扱われる事だろう。

すぐに去ればよかったかもしれない。

だが、遅い。

声の主へと振り向く。

「家に似てたんでね。少し懐かしい感じがして見させてもらってたんだ」

予想していたとはいえ、人間の成長ぶりには驚かされる。

幼さが抜けて、母親と父親のいい部分を受け継いだ綺麗な顔の千鶴がいる。

千鶴は私服で、鞄を腕にかけていた。

「写真の人」

千鶴の顔には不審者を見るというよりも、特別なモノを見る驚きで構成されている。

「え?」

写真の人とはどういう意味だろうか。

もしかすると、人の記憶はないにしろ、写真という記録が残っていたのかもしれない。

媒体があれば、俺の事は知らなくても、見た事があるといってもいい。

今更、兄妹面はしない。

突然、兄だと言われても混乱を招くだけだし、更に怪しまれそうだ。

記憶がないとはいえ、四年も家をほったらかしにした事実もある。

目的のために親父と同じ事をしたんだ。

あれほど、自分が許せない行為を千鶴にしてしまった。

それに、俺が千鶴の傍にいれば、危害も及ぶ可能性もある。

「他人の空似だよ。髪の色が違うだろ」

呪いが解けた今、俺は黒髪に戻っている。

「髪?何を、言ってるんですか?」

呪いという事実がなくなれば、写真の中の髪の色も変化するのか。

俺の写真は残っても、呪いだけは消える。

不思議だ。
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