妖魔04~聖域~
「君に不信感を与えた事は謝る。すまない。じゃあ、消えるよ」

しかし、これで怪しさが拭えたわけでもないだろうけどな。

俺が千鶴の横を通り過ぎようとすると、千鶴が道を塞いだ。

「何か、知ってるんですね?」

今の一瞬で何かを知っていると思った千鶴の鋭さには、感服するばかりである。

しかし、もし、俺が別人でおかしな頭の人間だったら、どうするんだ。

どこかが抜けていると取ってもいいのか。

それとも、直感で危険はないと悟ったのか。

「君が、幸せになる方法ぐらいは知っている。俺が君から遠ざかって、君の前に現れない事だよ」

「ちゃんと教えて下さい。あなたは何者なんですか?」

逃れられない状況なのだろうか。

千鶴の頑固なところは相変わらずだな。

「写真の中の人と、俺は別物だよ。だから、気にするような事でもないし、気にしちゃ駄目だ」

「言わなければ、警察を呼びます」

「おいおい、やりすぎだ」

写真の中の人の事、俺の事で警察を呼ぶ事まで発展してしまうのか。

しかし、怪しいのだから、実際は呼ばれてもおかしくはない。

「君が写真の中の人に何を抱いているのかは知らないが、俺にその人の影を投射するのは間違いだ」

「ごめんなさい。もし、あなたが写真の中の人だとしたら、色々と教えてもらえると思って」

「何で、こだわるんだい?」

「私の中に、何かが欠けているような気がして、写真の中の人の事を、忘れてはならないような気がするんです」

俺は、困惑するしかなかった。

執着してくれるのは涙が出るほど嬉しいのだが、関わるわけにもいかない。

言えば、楽になるのかもしれないけどな。

「きっとさ、写真の中の人も、君に会いたいと思ってるんじゃないかな。そこまで、君に思われてるんだからさ」

もどかしさから、血が出るほど拳を握り締める。
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