妖魔04~聖域~
「吟達の言う事は解る、勝利は必要だ。でもな、俺の考えは変わらないよ。自分の勝利よりも、お前を守る事を選ぶ」

俺の意志は、吟と共に生きるある。

「お前は、頑固な奴だ」

相手側にも家族はいるだろう。

相手側の誰かが死ねば家族が泣くことになる。

だが、俺にも守りたい人間がいるし、泣かせるわけにはいかない。

勝利を掴む事こそが唯一の鍵だとしても、俺は守る。

守って守って守って、守り抜く。

何のために力を付けたのかは、守るためだ。

本質は守る事でしかない。

もし、吟に危害を加える敵がいるのであれば、守るために倒す。

お互いが傷つけることなく話し合いで解決するのなら、素晴らしいことだけどな。

本当のところ、誰も死にたくはない。

痛い思いはしたくないし、この世に留まっていたい。

「吟、俺は涙を流させない」

「はあ、お前は本当に馬鹿アル」

お吟さんが自分の食器を机の上に置いた。

「少し横を向くアル」

お吟さんに従い横を向いていると、頬に柔らかい感触が触れた。

「丞、お前のさっきの言葉はありがたく心に仕舞っておくよ」

耳元で囁くと離れていった。

神殿の外へ出て行く。

背中が小さく見えて、俺は後を追った。

神殿の外。

世界は夜になるらしい。

満月が見えており、お吟さんの後姿がある。

月に照らされたお吟さんの姿はとても綺麗で、何者も寄せ付けない冷たさを感じた。

いつもは人を求めているのだが、今は一人でいる事を望んでいるようだ。

姿を見ているだけしか出来ない。

声をかけてはいけないような気がした。
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