妖魔04~聖域~
「私はお前の気持ちに答えられないかもしれない」

俺のいる事には気付いていたようで、吟からご指名が入った。

吟は空を見たままだ。

「吟」

「私も生き物だ。心の入れ物は二つ入れられるほど大きくはないのさ」

無表情に見えて、中身は辛いのかもしれない。

「お前が、本当になりそうなんだ。だから、私は苦しいんだ」

ジジイと俺の事だ。

ジジイとの間に何があったのかは良く知らない。

問題があっても、ジジイの事を好きだって気持ちがあるのも確かなんだろう。

徐々に迫ってきていたのが俺だ。

肌を重ねるだけならば、気持ちなど必要はない。

俺も肌を重ねる事があったけど、それよりも重要視していたのは気持ちだった。

四年間、俺はお吟さんの心へと訴えかけ続けた。

少しずつでも変化が起こるだろう。

変化が怖いのかもしれない。

「吟はそのままでいいじゃないか」

「お前はそれでいいのか?ずっと勝利を掴むことなく、ただ肌を重ねるだけの偽りの日々でいいのか?私の気持ちを守るだけの日々でいいのか?」

「俺は」

俺だってジジイに負けないくらい、お吟さんのことが好きだ。

近くにいることで安心していたが、何も解決していない。

壁があるとは、まだ到達していない心の底のことだ。
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