妖魔04~聖域~

執念の一撃

葉桜靜丞。

齢三十にして大妖魔と同等の力を持った妖魔の内の一匹。

年齢は千まで達しており、鋼の精神と肉体を持つ。

吟と出会ったのは偶然だった。

妖魔の里から出て任務の最中に、怪我をしている吟に出会った。

怪我の治療を行うと、二人は懇意の仲となっていった。

結納を上げ、順調に進んでいた二人。

姉妹を授かり、子達も育っていった。

だが、靜丞には任務があり、家を出なくてはならなかった。

その任務に吟は連れて行けと言った。

だが、靜丞は戦場での戦いは男の仕事だと拒んだ。

お前は子供の面倒を見ろと言う。

それが吟は気に入らなかった。

元より、家で何かをしているよりも、戦場の空気のほうが好きだった。

子供は物心ついていて、靜丞の親に任せる。

吟の親はすでにいなかったからだ。

戦場に立つ女として、吟は家から出て行く。

靜丞が気づいた時には遅く、どこへ行ったのかも解らなかった。

お互いを思う感情は残っている。

例え、戦場のスリルから生まれる高揚感から他人と体を合わせようとも、それが消える事はなかった。

それが現在に至り、同じ風格、ニオイを持つ男に出会ったとしても、多少のすれ違いなど瑣末な問題だと軽視していた。

だが、それは間違いだ。

同じ者ではないにしろ、吟が惹かれていたのは事実だった。

そう、男には戦場のニオイがしたからだった。

男に自覚がなくても、自然と漂わせる戦場のニオイ。

嗅ぐわせる者もいたが、男は格別の味を持っていた。

そして、男が吟に囁き続けた。

その男が吟の血筋の者であっても、吟にはいい材料だった。

禁忌とはいえ男と肌を重ねた時に満たされる。

だから、吟の心は揺れている。

戦場のニオイを持つ男達が戦う事は望んだ事なのか。

きっと、望んだ事だ。

吟は戦場のニオイが好きなのだから。

自分を奪い合うという衝突も、止めようとはしない。
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