妖魔04~聖域~
「お前は戦人だ。高みに上れる資格がある」

ジジイに斜めに刻まれた傷は谷のように深く、致命傷になっていた。

「俺は、吟さえいてくれればいい」

俺は膝を付いた。

お吟さんを奪ったはずなのに、嬉しくない。

ジジイを斬った。

今、命の灯火を消そうとしている。

「ワシもここまでか」

ジジイ自身も終わりを覚悟したんだろう。

だが、傍には燕が立っている。

「お前ら、男臭いな」

ジジイの傷口に触れると傷が見る見る内に塞がっている。

だが、中途半端で止まってしまったようだ。

「私は喜劇は好きだが、悲劇は好きじゃない。ちなみに、途中で止めたのは傷跡が残ったほうが格好いいからだ」

「小娘、ワシは戦で死ぬつもりだったんじゃぞ」

燕に訴えかけるが、耳に小指を突っ込んで聞く耳はもたない。

「お前の余生は庭の草むしりがいいぞ。どうだ、素敵な案だろう?」

死に損なった若人は、老人の姿に戻っていた。

魔力を使いすぎたせいかもしれない。

どうでも良かったな。

俺は倒れた。

変身は解けて、ロベリアのコアが転がっていく。

それを見ている余裕もなくて、吐血する。

あまりに壮絶な戦いで、体のところどころが損傷している。

俺は、死ぬかもしれない。

吟を手に入れたというのに、なんていう様だ。

麻痺し始めた体、重くなる瞼、広がっていく血。

霞んでいく風景の向こうには吟の姿を見た。
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