妖魔04~聖域~
「立て」

「ああ」

言われるままに立ち上がると、手を差し出してくる。

返事をするようにジジイの分厚い手を握った。

「孫のお前が、ワシを乗り越えるとは思ってもみなかったわい」

「今、なんつった?」

孫という単語が聞こえてきたような気がする。

「ワシよりも耳が悪いのか?それはイカンな」

「ちょっと待て。俺がじいさんの孫だっていうことを知っていたのか?」

「普段使わぬ若男法を使い、若かりし姿に戻ったに時に思い出したみたいじゃ。記録まで探り当てるとは、ワシの脳も捨てたものではないな」

記憶が消えたわけではない?

「龍姫、これはどういう事だ?」

「ワラワが考えるに、記憶は消えるわけではなく、深い奥底に封印されてしまっておるようじゃ」

「なら、呼び覚ます事は」

「靜丞は特別なのじゃろう。可能性はないとは言わぬが、普通の者では不可能に近い」

「そうか」

希望は捨てるなか。

しかし、ジジイは本気だった。

自分の女を横取りされるのに肉親も何も関係ない。

「吟みたいな婆さんに惚れるとはな」

「靜丞、もう一度傷口が広げたいアルか?」

鋭い目つきと伸びた爪が光り輝いている。

殺意が篭っている事は皆まで言わない。

「年齢とか関係ないよ。吟だから、好きなんだ」

「小僧が、言いよるな」

笑っている顔には悔しさなどはなく、澄み渡った清々しさがあった。

「本当にこれでよかったのか?」

勝利したとはいえ、尾を引いているようだ。

「胸を張らんか!このバカモンが!」

腕を引き寄せられると、ボディーに重い一発をお見舞いされる。

「ごえ」

生身で食らうと軽くても十倍は痛い。
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