妖魔04~聖域~
「わあ!お母さんだあ!」

いの一番で吟に抱きついたのは笑顔の久遠だった。

「コラ、アホ娘!アチシは肉に興味があるアル!」

引き離そうとするが、がっしりと腰に腕を回して離れない。

嬉しさのあまり頬擦りしている。

冬狐もいるのだが、静かに食事をしている。

魔乳は健在であり、垂れ落ちそうな気配はない。

肉を食いながら、横目で眺めるセクハラジジイは放っておこう。

男は立ち上がり吟の前まで来ると、静かに頭を下げる。

「吟様、ご無沙汰してます」

「道元はいつも堅苦しい奴アルな」

道元?

冬狐や美咲の父親で、保守派の上層部の妖魔か。

吟が様付けで呼ばれるって、吟も相当な権力を持っているのか?

「お父さん、吟さんが困ってるよ!」

美咲の一言で頭を上げた。

道元の表情はとても柔らかく、怒った顔など想像できない。

今度は俺の前まで来ると、優しい視線で見る。

「君の事は夢島君から聞いている」

燕が俺の事をどう語っているのか気になる。

それ以前に、報告は滞りなくしているのか。

仕事を丸投げしているイメージがあった。

そういえば、燕の姿がない。

しかし、有力な情報は燕よりも道元のほうが豊富だろう。

道元にマリア=マティーの事を聞いてもいいかもしれない。

この男、信用出来るか?
< 268 / 330 >

この作品をシェア

pagetop