妖魔04~聖域~
道元はいなくなったが、美咲が箸と肉を入れる皿を持って立っている。

「ザックさんでいいですか?」

「呼び捨てと溜め口でいい」

美咲に丁寧語を使われると、やりにくいな。

俺が美咲に丁寧語を使いたいくらいだぜ。

「う、うん、解った。そういえば、過去に、会ったよね?」

記憶を手繰り寄せると、旅立つ前に会った事はある。

「よく、覚えてるな」

「やっぱり、間違ってたらどうしようと思ったよ」

「わざわざ言ってくれて、すまないな」

まだ覚えていてくれた事に嬉しくなった。

「気にしないで。それより、食べないの?」

「ああ、そうだな」

美咲との会話を久々にしたような気がする。

周囲を見ると、吟は冬狐の隣で常人程度に食べている。

吟は、性欲と戦闘以外、まともな妖魔だよな。

全てがガツガツしていても、吟のことは好きだ。

「ちょっといいか?」

「うん?何?」

燕がいないとなると、美咲に聞くしかないか。

俺は美咲を家の外に連れ出した。

道元に直接聞かれるというのは避けておきたい。
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