妖魔04~聖域~
「簡単に頭を下げるのも、どうかと思うわね」

「お姉ちゃん!」

美咲の怒った顔は冬狐には及ばないものの、迫力はある。

「いい加減にしてよ!ザックは何も悪い事してないでしょ!?」

「何言ってるの、この家に来た事自体が悪い事でしょう?」

「普通の人だよ?何が起こるっていうの?」

「美咲、気付いてないフリはいけないわよ」

「え?」

さすがに、冬狐は俺が妖魔だという正体には気付いていたようだ。

だが、『葉桜丞』としての正体は知らないはずである。

「こいつは妖魔よ。どこの馬の骨かもわからないようなね」

美咲には狼狽の眼差しがある。

「葉桜吟と行動を共にしていたとはいえ、ザックという個体の情報はなかった。そんな話、ありえると思う?」

日本の妖魔は上層部に情報を知られているらしい。

しかし、上層部の妖魔である道元でさえ、燕からの報告がなければ俺の事は知らなかった。

そこに、矛盾してる部分が存在している。

俺の記録は確かにあるだろう。

それは千鶴が証明している。

何故なら、俺の写真は存在していたからである。

じゃあ、何故、知らないか。

理由は簡単だった。

記録を探すには、記憶がなければ不可能である。

誰の頭の中にも俺の記憶はないのだから、記録を探す手段がないのだ。
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