妖魔04~聖域~
「ワラワが不甲斐無いばかりに止めることが出来んかった」

二人は言い争いになっただろう。

だけど、龍姫に悪い部分は一つもない。

俺のためにクルトを引き止めたんだ。

力不足だとか、責めるのはお門違いである。

クルトはクルトで早く就職して、自立した生活を送りたかったのかもしれない。

でも、今の世の中、危険すぎる。

クルトが力を使えるとはいえ、異質な世界なんだ。

退魔師に出会ったとすれば最悪だろう。

瑠璃子のような奴なら尚更である。

退魔師でなくとも、警察官がクルトの身なりを見れば、職務質問を行った後に強制送還しかねない。

クルトが抵抗し、警察よりも上の立場にある退魔師が現れると、結局、恐ろしい事になる。

それに、日本という国をあまり知らないはずだ。

妖魔の里が何処にあるのかわからないだろうし、就職できるか場所も知らない。

「焦るなよ」

早くクルトの事に取り掛かっていたほうが良かったのか。

いや、悩むな。

今は、クルトを呼び戻す事に専念しよう。

「いつのことだ?」

「丞ちゃんが戻ってくる数分前のことじゃ」

「ち、入れ違いかよ!」

吟を一旦下ろそうとしたが、腕と足が巻きついていて取れない。

「吟、ちょっと、今急ぐんだが!」

自分も連れて行けと言っているように、離れない。

「ちゃんと口で言ってくれ」

今の状態で、外を歩き回る事になりそうだ。
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