妖魔04~聖域~
外で最低限の出来る事をやるしかない。

周囲に人はおらず、目を気にする必要はないのだけどな。

ロベリアは蝶を眺めているので、チャンスは今しかない。

ありきたりではあるが、吟にディープキスをして交戦する。

吟の舌も動くので俺の頭がやられそうになる。

一分か二分か解らないが、時間が経ち唇が離れる。

「ぜえ、ぜえ、どうだ?」

「まあまあ、アル」

潤んだ瞳が俺を射ている。

更なる要求が出るんではないかと恐怖してしまう。

「少し進んだ場所にあるアル」

充電出来たのか、素直に教えてくれたようだ。

トータルすれば、1時間以上は自分の欲望のままに突き進んだんだからな。

改札の向こう側は、海の近くで潮風が鼻腔をくすぐる。

人は歩いておらず、時間が止まっているようだった。

アスファルトで固められた地に一軒家が多く、緑も比例して多い。

周囲の住人は、都会の雑音とは無縁だといってもよさそうだ。

吟の背中を追いながら、海の方面へと歩いていく。

段々と緊張感が高まっている。

駅を降りた時よりも数倍、長閑ではあるが空気の淀みを感じる。

普通の人間なら、魔力が混じった空気には気付かないだろう。

色がないし、普通の上手い空気と変わらないんだ。

今は魔力を感じられる。

四年の月日の中で感じ取れるようになった。

別段何かしたわけでもないが、突然のことだった。

理由があるとすれば、幾度となく吟と交わりを得たからか?

薄いものならわからないが、濃い魔力なら肌で感じられる。

普段の場所ならば、絶対に魔力が空気の中に混じるなどありえない。

魔力が空気に混じるとすれば、妖魔が集う場所だろう。

魔境の一部だとすれば、天国の島へと続く港があるのだろうか。

数分歩き続けたがクルトの影は見当たらず、海に辿り着いてしまった。

ガードレールの向こう側には砂浜があり、先には静かに漣が立っている塩水がある。

広がる地平線、どこまでも続いていく世界。
< 287 / 330 >

この作品をシェア

pagetop