妖魔04~聖域~
「どうかしましたか?」

「何故、人間は愚かな方向へ進もうとする?」

「え」

唐突な質問により、千鶴は狼狽する。

「私には解りません」

「そうか」

同じ人間でも解らないことがあるのは当たり前の話。

「でも、愚かになるために物を増やしたわけではないと思います」

「何故だ?」

「物が豊富になれば、気持ちが楽になるし、安心して暮らしが出来るからだと、思います」

自信がないのか、最後の方は声が小さくなっていた。

「矛盾だな」

「そう、ですか?」

「現状を見ろ。物が豊富になったからといって、満足な生活が出来ていない」

俺は閉まっている店を指差した。

「それはそうですけど」

「無理に言う必要はない。俺はお前を責めるために質問したわけじゃないんだ」

千鶴は自分が質問に答えられなかった事により、うな垂れながら先を歩いた。

「何か、食べますか?」

顔を少し上げて、俺の顔色を伺っている。

「腹が減っているのなら、食べれば良い」

「いえ、やっぱりいいです」

傍には冬狐や燕といった強気な女がいたせいで、珍しく感じる。
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