妖魔04~聖域~
男はタバコを取り出して吸い始める。

男のニオイ。

もう一つだけ、気になる物があった。

「お前さん、千鶴に悲しい顔させるなよ」

「はあ?」

「目に入れても痛くない可愛すぎる愛娘を、笑顔にさせてくれないと困るんだよなあ。本当なら、お父さんの俺がデート相手でも良かったんだ」

いきなり出てきて、おかしな事を言い始めた。

しかし、男の言っている事は確かだ。

根本的な匂いは同じ。

青いコートの男は千鶴の父親だ。

そして、ガキを事故から救った男。

あの男も同じニオイをさせ、血は繋がっている。

だが、何故、青いコートの男は娘がいなくなってから姿を見せた。

デートがしたければ、勝手にすればいいだろう。

簡単には会えない理由があると踏んでいい。

だが、俺には関係のない話だ。

「敵でも何でもなければ消えろ。それとも、殺るか?」

「だからな、物騒な事はどうでもいいんだよ、お前さん、もうちょっと女の子を喜ばせてやれるような気の利いた台詞は言えんのか?」

娘と同じく、親との会話も調子が狂う。

今の台詞からすれば、先ほどから見ていたに違いない。

「俺は街を見て周っているだけだ。関係ないな」

「駄目だ駄目だ!お前さんの台詞で千鶴が憂い続けて、今日の事で落ち込み続けたらどうするんだ」

「だったら、お前が一緒に見て回ればいいだろう」

いい加減、面倒くさくなってきた。
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