妖魔04~聖域~
「なかったら来ないわね」

一度出た冬狐が平然と答えているところ、確証が在るのだろう。

俺と冬狐だけで、飛鳥が追ってくる気配はなかった。

『暗号を答えよ』

頭の中に声が届く。

周囲に変化はないが、出口の前にいるということか。

「暗号を言いなさい」

冬狐にも聞こえている。

「お前が先に言えばいいだろう」

焦っている様子はないが、いつまで経っても言いそうにない。

「アンタは急いでるんでしょう?私は先を譲ってあげると言っているのよ」

面倒だし、ウダウダ言い争いをするつもりはない。

多分、冬狐は暗号を知らない。

前回、里から出た時も代表者の妹と一緒に出たという情報が流れてきた。

それは、妹がいなければ暗号が解らないことを意味している。

代表者だけに渡された暗号だが、共通かどうかはわからない。

一人一人が違っていて、今年の代表者の声紋でなければ出られない仕組みかもしれない。

無理に出ようとすれば、森の中を迷ったり、罰が待っている可能性もある。

不正を防ぐためならば、当然だといっていい。

二人で出る事は出来ないんじゃないのか。

冬狐はどうやって、妹と一緒に里から出たのか。

「どうでもいい。出られるのならな」
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