妖魔04~聖域~
凍てつく世界

流れ

谷底から風が吹き上げてコートを揺らしている。

風は谷へと誘うような声を出している。

だけど、気のせいにすぎない。

そんな事はどうでもいいんだ。

今いる場所は日本ではないどこかだ。

色々な世界を歩き渡り、辿り着いた場所である。

船に乗ったり、飛行機にのったり、交通手段を全て体験したのではないか。

最終的には紅い渓谷が目立つ、グランドキャニオンのような場所まで来ている。

赤く染まった岩や山や谷などがところどころある。

理由などはなく、旅をしていたからこそ辿り着いた場所だ。

旅をして四年が経っただろうか。

途中、山賊に襲われたり、海賊に襲われたり、巨大鳥の妖魔が襲いかかってきたりと、いつ死んでもおかしくはない状況に追い込まれてきたが、何とか乗り越えてきた。

更には修行も進み、日本へ帰るべきだと思っている。

しかし、オマケである、『とある研究所で契約妖魔の研究をしている』という場所は見つかっていない。

「うーん、オマケだしなあ」

力があるに越した事はないが、延々と旅を続けている場合ではない。

谷から目を離して背後を振り返ると、石の上にフードを被った人影が水筒の中の水を飲んでいる。

「それ、俺の分だぞ」

「私に喉を枯らして死ねと言うのかい?ああ、嫌だ嫌だ」

「はあ、お吟さん、その台詞、何度目だよ」

何度も訊いた台詞が、今も耳に届いた。

「丞とアチシの仲じゃないアルか。しっぽりムードの丞ならそんなこと言わないアル」

紹介する必要もないが、石から腰を上げたのはお吟さんだ。

「そんな事を言ってても、丞はアチシにベタ惚れアルからなあ」

決して楽しいことばかりの旅じゃないのにも関わらず、お吟さんは飽きる事なく付き合ってくれている。

途中で止めることだって出来たっていうのにな。
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