妖魔04~聖域~
深層世界。

母さんの姿は見えず、スポットライトの当たった場所のベンチに座っている。

周囲の暗闇の中から響く、世界を満たす音色が耳に届く。

『ワタシと同じ』

『帰る場所をなくした惨めな人形』

『幸せを求めてる』

『掴めるの?』

『鎖に繋がれたままで出来るというの?』

連続で聞こえてくる女性の声は、哀しみに満ち溢れていた。

「何もしなければ鎖を引き千切ることなんか出来ない」

俺は顔を上げて答える

『諦める?』

「いや、引き千切る牙は最初からある。怯えているから気付かないだけだ」

彼女と会話は出来るようだ。

「世界に孤独は存在する。でも、人は絶対に一人とは限らない。居場所がないわけでもない。誰かが傍にいるのなら、居場所はすでにあるんだ」

『因果の法則を破った王子様、ワタシは星の輝きを得た牙に期待してる』

彼女はどこかで待っている。

『眠っている。誰も気付かぬ箱庭の中で』

「どこだ?どこにいる?」

『雪のように白く、冷たく、誰も触れられない檻の中で』

「待ってろ。すぐ噛み砕いてやるさ」

牙があるのならば、彼女を助ける事は可能だ。

『ワタシは祈っている』

『あなたがワタシの星である事を』

美しき音色にノイズが広がっていく。

視界もノイズが埋め尽くし、テレビの電源を消したように静寂へと堕ちていく。
< 71 / 330 >

この作品をシェア

pagetop