妖魔04~聖域~
自然に瞼を開いていく。

白い部屋の片隅に置かれたベッドの上で寝ているようだ。

周囲には、机の上に水の入った瓶とコップがあるだけであった。

窓も何もない、白い囲いの中にいるのは一人。

お吟さんはいない。

多少、痛みの残る頭に触ると、髪の毛がない。

手術をするからには髪の毛を剃るのは解る。

だが、恥ずかしい気持ちになるのはどうしてだろう。

「俺はチューナーになれたのか?」

色々調べた挙句、チューニングだけは失敗なんて洒落にはならない。

心身に崩壊が起きていないところ、成功したと思いたい。

手や足を動かしてみると、支障はない。

立ち上がり、壁と同じ色の扉をあける。

白とは打って変わって、廊下は黒に支配された世界。

電灯は切れており、暗闇に目が慣れていないので道が見えにくい。

「人に優しくない施設だぜ」

深層世界の声が気になった。

鮮明に覚えている希望と絶望の羅列。

殻の中に押し込まれた彼女は求めている。

ずっと、誰かを待っている。

「狭い場所で待つなんて、エコノミー症候群になりかねないな」

勝手に動けば道に迷うかもしれないし、監視もされている。

研究所にいるという事は、ラインは声の持ち主の事を知っているはずだ。

放置しているのは彼女の元へ行くことを期待しているのか?

俺は声が聞こえた事を言ってないし、何でも都合よく物事を図れるだろうか。
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