妖魔04~聖域~
「ここにいた。良かった。本当に良かった」

悲痛な声を上げながら、姉は妹を抱きしました。

妹にとって、姉の抱擁は自分の求めているものではありませんでした。

ですが、妹の心に癒しがもたらされている事に気付きました。

温かみのある肌、心、傍にあるものは彼女のために用意されたものでした。

目の前で涙を流している姉を傷つけたのは自分だということにも気付きます。

妹にとって、流した涙も掛替えのないものであり、自分のエゴですり潰してはならないと思います。

自然に作られたものだからこそ、美しさを感じられるのでした。

「ごめん、なさい。姉さん、本当に、ごめんなさい」

「いいの、隠していた私が悪かったの、あなたは何も悪くないの」

髪を撫でる手つきは優しく、全てを包み込むほどの力がありました。

娼婦とは思えない、まるで聖女が傍にいるようでした。

しばらくして、共に家に帰った二人は同じ布団で眠りました。

妹は母に抱かれるように、姉の胸の中で安らかな眠りを得ます。

姉は娘をあやす様に、頭を撫でながら妹を眠りの中へと誘いました。

彼女達にとって、些細な障壁などとるに足りません。

絆というべき心の繋がりは切れなかったのです。

姉自身も反省しました。

妹の気持ちに気付いていながらも、それを見ようとはせずに逃げていたことに。

それによって、妹は酷く、深く傷ついてしまっていたことに。

妹は好きでした。

自分に似た存在であっても、性質は逆といってもいい。

そこが可愛らしくも感じていました。

唯一無二の存在であり、ずっと見守っておきたくもありました。

考えているうちに姉も眠りの底へとおちていきました。
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