◇◆あじさい◆◇
私は家に帰ると、母の写真を眺めた…。夕飯の支度もする事なく、ただ写真の前に座り込んでしまった。



『風花?帰ったのかぁ?』

父の声に振り向くと、優しい笑顔をくれた。


『…ごめん。まだ夕飯…』

私が慌てて立ち上がろうとすると、父は『いぃ。いぃ。』と、首を横に振った。

『…えっ?』


『…母さんと、話をしてたんだろ?邪魔しちゃ悪いから…。』


父は、そう言ってドアを閉めた。

私は、母を亡くして1番辛く悲しい思いをしているであろう父に、甘えてばかりの自分が情けなく思えた。

好きな様に遊んで帰ってきて、父の料理を食べる事もしばしば…。朝は、ご飯と味噌汁の生活を何十年も続けてきた父が、トーストを焼いて食べる様になった事すら、仕方ないと見過ごしてきた事…、父は私に何一つ文句を言わなかった。



『…お母さん。
私…。いっつも自分の事ばっかだね…。お母さんにも、お父さんにも…。ごめんね…。』




私は、部屋を出ると台所へ向かい、父に代わって焼きそばを作った。
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