【短編】プロポーズはバスタブで。
あくまで他人事というように沙織は言って、まだ口をつけていなかったカクテルを一気に飲み干す。
そして、おもむろに立ち上がり。
「んじゃ、旦那と子どもが待ってるから。ヒカリ、ごちそうさま」
「え、ちょっと・・・・おごり!?」
「相談料よ」
そう言って、ニヤリ。
沙織はあたしに背を向けると白々しく手を振って帰っていった。
これを“飲み逃げ”と言わずになんと言う・・・・。
相談料を取れるほど親身になってくれたわけでもないのにっ!
「なんて親友だ、沙織は!」
そう毒を吐き、あたしも負けじと残りのカクテルを胃に流し込む。
それから立て続けに3杯、同じものをおかわりして一気飲み。
30分と経たずにあたしもそのバーを出ることになった。・・・・もちろん沙織のぶんの料金も払って。
いい歳の女が1人、金曜日の夜にフラフラとした足取りで向かうのはただの自宅マンション。
といっても、古いものだからそれほど家賃が高いわけでもなく。
“マンション”とは名ばかりの、築ウン十年の建物だったりする。