【短編】プロポーズはバスタブで。
「あれ? ヒカリ、固まった? ・・・・なんだよー。普通、ココは笑ったり泣いたりするトコだろ? プロポーズされてんだから」
「いや、そうなんだけど・・・・」
「はっ?」
どど、どうしよう、想定外すぎて涙も出ないし笑えもしない。
人生でたった1度きりのすごく貴重な瞬間なのに、なんでこんなに冷静なんだ? あたし・・・・。
自分のことながら、意味不明だ。
それを話すと、孝明はブハッ!と豪快に吹き出して笑った。
バシャバシャと湯ぶねまで叩いてお湯を跳ね上げ、それはそれは、豪快と言うしかないほど豪快に。
けれど、その間もあたしが見つめる左手の薬指に光る指輪はキラキラと輝いていて・・・・。
その輝きに少しずつ、本当に少しずつだけど実感が湧いてきた。
すると、つつー・・・・ぽちゃん。
頬を伝って落ちてきた涙の雫が一つ、湯ぶねの中に溶け込んだ。
「あ。やっと実感してきたなぁ? こういうのにホント鈍いよな、ヒカリって。ワンテンポずれてるっていうか、なんていうか」
「えへ、えへへ〜・・・・」