【短編】プロポーズはバスタブで。
「ごめんねぇ・・・・」
携帯の待ち受け画面にした孝明の写真にポツリ、力なくつぶやく。
しばらく眺めていたら涙がじんわり浮かんできて・・・・パコッ。
携帯を閉じた。
こんな気持ちのままでは、いくら写真とはいえ孝明の顔を見ていることができなかった。
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「今度、隣に引っ越してきた加藤です。ごあいさつに伺いました」
「あ、そうでしたか。わざわざどうもありがとうございます」
それが、孝明とあたしの初会話。
今でもよく覚えている。
大学を出て就職して、一人暮らしにも仕事にも慣れてきた社会人1年目、5年前の夏。
暑い盛りに彼はやってきた。
「しかし暑いですね。タオルなんていうつまらない物ですが、よかった使ってください。あっても困らないと思うので」
そう言って夏の暑さも吹き飛ぶくらい爽やかに笑った孝明に、あたしはズッキュン。
一目惚れ。
ブサイクなワニがプリントされた変なタオルだったけど、一生大事にしようと思うほど嬉しかった。