PRINCESS story
鈴野さんが車を発車させ、しばらく経った頃だった。
「あれ……おかしいな…」
「鈴野さん…?どうかしました?」
「いえ、なんだか車の調子が」
鈴野さんの表情が、みるみる曇っていく。
「嘘だ…」
「鈴野さん?」
「……車のブレーキが…効きません」
初めは冗談かと思ったが、赤の信号に向かってスピードを落とさず直進していくこの車を見て、嘘でないと悟った。
「姫……この車は、私の力では止めることが出来ないようです。
でも、私を信じて下さい。
必ず、無事に姫を送り届けます。必ず…」
そう言った鈴野さんの目には、強い決意が現われていた。