それでもおまえらは、俺を合コンに誘うのか?
 家は不動産であり、固定資産である。それはどちらも移動させることができない資産であるということを示す言葉だ。
 家は動けないのに利明の足はそこを目指して歩を進めるのだから、いやがおうでもそのうち彼は、運命の扉の前に到達してしまう。それはいくら意図的に歩調を遅くしたとしても避けては通れない道なのである。
 勿論道中で目的地を変えるという回避手段もある訳だが、今の利明はそんなことをするだけの気力も体力も持ち合わせてはいなかった。

 進路を変更せず、ただとぼとぼと歩調を落とすことによってのみ運命に抗おうとしていた利明は、前途洋々だった息子の人生を大きく変えることになるであろう運命の扉【玄関】の前に到達してしまう。

「……、……、……、……カズ、すまん」

 独りごちるように息子に一言詫びを入れた後、実際に和俊の野球人生を大きく変える取っ掛かりとなった運命の扉を、力無く引き開けた。
< 2 / 50 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop