奥に眠る物語
「さて。今日はアールグレイをもらおうかな」

いきなり彼が注文してきたので、私は慌てて伝票を取って書き込む。

「で、では少々お待ちください!!」

私は逃げるようにその場から走った。

手が震える。

足が、がくがくと震える。

止まらない。

止まらない。

何もかも。

彼のことをもっと知りたいという好奇心から、すべて。

私は雑念を振り払って、紅茶を彼の元へと運んだ。

「おまたせ、しました」

そう言って、震える手でカップを置く。

彼は少し間をあけてカップを手にとって一口飲んだ。

彼の顔が険しくなる。

「・・・何か戸惑っているね それはアレかな 僕のせい、かな」

何もいえない。

空気が肯定を表す。

「・・あの憑雲、さん 私「あぁ、そうだ」

意を決して口を開くと、彼に遮られてしまった。

「僕だけ名前を名乗るのもアレだからね 君の名前も名乗ってほしい」

・・・そっちは偽名の癖に。

少しだけイラッときたが、私は顔に出すことなくそっけない態度を頑張って作りながら言った。
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