奥に眠る物語
「あー、腹減った。 皐月、なんでもいいからなんかだせ」

カウンターでうだうだしながらそういっているので、私は仕方なく用意する羽目になった。

冷蔵庫から今朝作ったティラミスを取り出して皿に盛る。

紅茶を淹れるのは苦手だが、お菓子を作るのは得意なので、この店で出しているデザートは私が作らせてもらっているのだ。

「川上さんティラミス平気ですよね? ココ置いておきますよ」

「んー・・サンキュ」

そういいながらスプーンを取って口に運ぶ。

私は底が青いオーナー専用グラスにアイスコーヒーを注ぐ。

「あの、まだ営業時間内なのに良いんですか? お客さん来たらびっくりしますよ」

オーナーの近くにコップを置きながらそう言うと、オーナーはスプーンを置いてコップを手に取った。

「大丈夫、ココは俺の店だし。 あんま客もこの時間帯は来ないしな」

「そう言う問題ですかね・・・」

苦笑いしながら、私は食器を片付ける。

「さ、て。 ごちそーさん 今日はもう上がっていいぞ」

「えっ?! なんですか急に」

いつもならば、そんなこというはずない。

私が戸惑っていると、オーナーが勝ち誇った顔でこちらを見てきた。

「今日は俺六時から予定あるんだ。 いいだろう羨ましいだろう」

「・・・別に羨ましくないですよ」

オーナーのことだから絶対、女絡みなのは間違いない。

これまでも幾度となく、店に電話がきていたからだ。
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