奥に眠る物語
数分して、私は紅茶を彼の元に置いた。

「お待たせしました、アッサムティーです」

カチャ、と食器が擦れあう音を聞き流しながら目の前に置く。

彼はカップをゆっくり持ち上げると、紅茶を口に運んだ。

私はそれをカウンターで眺めていた。

なんて絵になるんだろうか。

レトロな雰囲気漂うこの店に、彼はとても似合っている。
額縁に入れて飾っておきたいほどだ。

すると、彼は急にこちらに振り向き手招きをした。

一瞬誰にだか分からなかったが、今この空間には私と彼しかいないので
慌てて駆け寄る。

一体、どうしたというのだろうか。

紅茶がまずかったのだろうか。

あらゆる場面を想定して、私は彼のそばに行ったと同時に
頭を下げた。

「す、すみません!! あの、まだ紅茶とか淹れなれてなくて・・」

「ちがうよ ほら、頭上げて」

彼が困ったように言うので私はおそるおそる頭を上げると、彼はやさしく微笑んで
言った。

「この紅茶はキミが淹れたのかい?」

「は、はい ・・お気に召しませんでしたか?」

申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらそう尋ねると、彼は
首を横に振った。
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