奥に眠る物語
「おっ俺・・・ 何か悪いことした覚えあらへんのに 気がついたら居なくなってもうたんや・・」

ぐじぐじと鼻を鳴らしながら泣き始めてしまった李玖に、私はそっとハンカチを差し出した。

「あの、これ。 良かったら使ってください」

「アンタ・・・ ツクモには勿体ないくらいええ奴やな!!」

そう言ってハンカチを受け取って、涙を拭く。

私は李玖の言葉に真っ赤になり、何も言えないでいると横から彼が顔を出した。

「ほら、泣いてないで案内して。 いつまでこんなとこに僕らを立たせておくつもりなんだい?」

「うっわ、感動的な場面ぶち壊しやで 空気読めや空気」

そう言うと李玖は、まるで子供のように怒りながら先を歩いていってしまった。

私が呼び止めようとすると、彼がそれを止めてきた。

「大丈夫。 アレが彼なりの案内だから 僕らはゆっくりついて行けばいい」

「で、でも けっこう遠くなってしまってるんですけど・・・」

ゆっくり歩きながら前をみると、李玖の背中はすでに小さくなっており、見失ってしまいそうだ。

だが、彼は急ぐことなくマイペースに歩く。

「・・そんなに気になるならちょっと見ててご覧?」

「・・・あ。」

じっと見ながら歩いていると、急に李玖がこちらを振り向いた。

ついてきていることを確認したのか、また歩きだす。
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