奥に眠る物語
「いや、その逆だよ。 とてもやさしく淹れてあるね 僕は好きだな」

そう言いながら、紅茶を一口飲む彼。

私は一瞬耳を疑った。

実は、紅茶に関してオーナーには未だ合格点をもらえていないのだ。

オーナー曰く、私が淹れたお茶はざらつくし、苦いらしい。
だが、今オーナーは外出中なので私が煎れてしまった。

「あの・・ その紅茶、苦かったりしてませんか・・?」

「ん? あぁ、そうだね。 苦いしざらざらしてるし、飲めたものじゃないね」

そういいながら、彼はまた紅茶を一口。

飲めたものじゃないなら飲まなきゃいいのに。

「そうじゃないんだな。 キミ」

ニヤリと不敵に笑う彼。

・・・あれ、心の中読まれた?!

思わず引きつった顔で彼をみると、彼はまた笑った。

「キミ、分かりやすいんだ 顔に書いてあるんだよ」

「か、顔・・・ですか」

片手で顔を抑えながら、苦笑いを浮かべた。

そういえば、誰かにもそんなことをいわれたなぁ・・

「んで。 この紅茶は、確かに先程述べたように味は悪いし茶葉も
最悪な状態だ。 ・・だが、キミの想いがたくさん詰まってるいいお茶だ」

そういって彼は立ち上がると、出口に歩き出した。

私はあわてて伝票をとってレジへと急ぐ。


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