奥に眠る物語
彼に引っ張られたまま、マンションを出る。

怒っているのか分からないが、腕を掴む手はとても強い。

「い、痛い! 痛いです、憑雲さんっ!!」

閑静な住宅街に私の声が響く。

叫ぶように言うと、彼は歩くのを止めてこちらに振り返った。

「あ、ああ。 すまないね、早くあの部屋から離れたくて、ついやってしまった」

「・・・あの、コレ。 お返ししますね」

そういって首元に手を伸ばすと、彼の手によってそれを止められてしまった。

「だから。 それはキミに持っていて欲しいんだ、皐月」

「どうして、ですか? コレ本当はスゴく大切なものなんじゃないんですか?」

「・・・それは、まぁ」

彼が苦渋にまみれた顔でそう答える。

なんでネックレスの話になると、まるで重い石を乗せたように空気が重たくなるのだろうか。

「ならば言い方をかえましょうか。 どうして私が持ってなきゃダメなんですか? 私以外でもいいでしょう」

「駄目なんだ!キミじゃなきゃ 僕は・・・」

即答されたので、少し驚いていると、空からポツン、と雫が落ちて来た。

それを境に大雨が辺りを包む。

水分を含んだ服が張り付いてくる。

髪はぐっしょりと濡れる。

私はただ、彼をじっと見た。

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