奥に眠る物語
店の扉を開けようとして、やめた。


・・・怖い。


彼は大丈夫だといったけども、私はどこか信じきれないでいた。


忘れたというのが私を慰めるためだけの言葉だったらどうしよう。

私を見てオーナーが思い出したりしたらどうしよう。

そんな葛藤をしていると、ザッザッと後ろから誰かが近づく音がした。

勢い良く振り向いてみると、そこにはオーナーがいた。

「・・っ?! なんだ、そんな怖い顔して」

「え、あ いや・・不審者かと思いまして」

「おま、人を不審者扱いなんてひでぇヤツだな なぁ?」

『く、クアンッ!!』


オーナーが話しかけたのは、リードに繋がれた犬。

真っ白な毛並みで、ピンと真っ直ぐ天に向かって伸びた耳。

目は長細く、まるで・・・

「狐みたいな犬ですね」

「えっ? そんなことないぞ!! 犬だ、ちゃんと!!」

ギクッと効果音が鳴りそうなくらいに身体を跳ねさせ、ぎこちない笑い方で言うオーナー。

私はなんだか悩んでいた自分がバカらしくなって、勢いよく店の扉を開けた。

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