奥に眠る物語
「コイツは俺のパシりみたいなもんだ。 あともう一匹いるんだけど、そいつが今神社守ってるからな」

そう言いながらオーナーは、久遠の頭をくしゃっと撫でた。

『こちらとしては、たまには神社の仕事をしてほしいですよ いつまでも僕らに任せてないで』

「うっせ! 賽銭がないに等しいから俺がこうして働いてんだろうが」

「・・・苦労してる土地神なんやね」

そう言いながら、コーヒーをまじまじと見つめている和華。

もしかしてコーヒーを知らないのだろうか?

「和華さん、コーヒーはじめて?」

「こーひー? このどす黒い奴のことなん?」

「う、うん。 苦いから砂糖とか入れたりしたほうがいいよ」

私は和華のほうにミルクと砂糖を近付ける。

和華は砂糖の蓋を開けて1個だけ入れた。

「まぁつくも神なら知らないのも当たり前だろうな 普通こんなとこ来ないし」

「・・・いただきます」

和華は両手でカップを取ってゆっくり飲む。

「どう、和華さん? 飲めそう?」

「・・・苦い。 人間の味覚分からんわ」

そう言いながら、和華はそっとコーヒーの入ったカップを押し戻す。

「その苦いのが上手いんだよ」

そんなことを呟きながら、オーナーは和華が使っていたカップを手に取って奥の厨房へ行った。

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