奥に眠る物語
オーナーはニヤリと笑って和華の目の前にそのカップを置いた。

「お待たせしました。 カプチーノです」

「かぷ・・・?」

ふわふわの真っ白な泡にハートが描かれたなんとも可愛らしい仕上がりのカプチーノ。

コーヒーを淹れることに関してはとても真似できないくらい上手い。

このカプチーノだって、もちろんオーナーが作ったものなのだ。

「これならお嬢さんのお気に召しますよ」

「・・じゃあ」

呟くようにそう言って、一口飲むと和華は少し驚いた表情でカプチーノを見つめていた。

「・・・おいしい」

「だろう? コーヒーは色んな淹れ方があるからな」

コーヒーだけは尊敬出来るんだよね、この人。

私は空になったカップをもてあそびんでいると、飲み終わったらしい和華がカップを置いて立ち上がった。

「さってと。 ウチ、そろそろ行くわ」

「え、もう行っちゃうの?」

正直、またオーナーと二人になるのが怖い。

それが顔に出ていたのか、和華はなだめるように私の頭を撫でてくれた。

「大丈夫。 皐月に何かあったらすぐに駆け付けたるさかい安心しいや」

「・・うん ありがとう和華さん」

「ほな、土地神さんも頑張ってや」

「あぁ。 また来いよ」

オーナーがそう言うと、和華はニコッと笑って店を出ていった。

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