奥に眠る物語
彼は何かを慈しむように目を細めて笑って、口を開いた。

「気持ちを込めて淹れてある、ということだよ ほら、優しい味とかいうだろう? それと同じだと考えてくれればいい」

そう言って彼は立ち上がったので、私は彼が出ていくのをポケットの伝票を取り出しながら追いかける。

不意にコツンと何かが手に当たるのを感じた

そうだ、この間のネックレスを返さなくては。

私は彼が振り向くのと同時にスッと目の前にそれを出した。

「これ、貴方のでしょう? 落としてたわ」

「・・・!!!」

彼は目を見開いてそのネックレスを見つめた。


そんなに大切なものだったのだろうか。

「それどこにあった?」

「え、そこのソファに…」

この間の席を指して、説明する。

彼は少し考えて、何かひらめいたような顔をした。

「それ、良ければキミが持っていてくれないかな」

そう言って、私の手の中にあるネックレスを指差す。

私は迷った。

先程の彼の反応からみて、これはとても大切なものなのではないかというのが頭から離れないのだ。

「・・・大切なものは自分で持ってないとダメです」

私はそう言って彼にネックレスを押し付けた。


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