奥に眠る物語
息を整え、ゆっくりと立ち上がると彼も塀から降りてきた。

彼はじっとあの変な人がいるであろう方向を見つめている。

「・・いってみようか あっち」

そういいながら、走ってきた方向に戻る彼。

私に拒否権はないようです・・・

彼の後ろを少し距離置いて進んでいくと、あの紙袋の人が道のど真ん中に倒れていた。

彼は落ちている包丁を拾って懐にしまった。

「そんな紙袋かぶって走ればキツイでしょ。 そろそろ観念したら?」

「う、うぅ・・ そんなこと、しても主は私を許してくれないのです」

あれ、なんかかわいい声。

良く見たら、紙袋の変な人は黒いワンピースを着ていた。

裾から出ている白いフリルがとても愛らしい。

・・・って、もしかして

「・・・女の子?」

「いや、残念ながら男の子だよ 名前は真央ね」

女装趣味の男の子・・・

将来不安だなぁ。

「皐月、さっきの日本刀、出してみて」

「あ、ハイ」

言われた通りにそれを出して、彼に渡す。

彼はそれに何かをつぶやくと、フワッと浮いて人の形を成した。

新緑のような鮮やかな、腰まである糸のような髪。

燃え盛る紅蓮の炎をともしたようなその瞳。

すらりとしたその身体を包むのは、真っ黒なロングコート。


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