貴方が忘れられない。
いっそのこと、壊してよ
父は住居をひっそりと変えた。契約はそのままでいつでも戻れるようにと綺麗にして出てきた。私は、大きな病院で治療することになった。河東先生の紹介で入院した病院は地元からかなり離れた都会。
小部屋は思ったより寂しくなかった。
携帯は解約し、連絡手段を絶った。今頃中退の手続きは終えているだろう。ちょっとした開放感に一人微笑む。なにかも投げ捨て、命のみ残ったこの軽さにびっくりしてしまう。
逃げるって、こういうことなのね、と。
「気分はどうですですか、あいさん」
秋山先生は若い男の先生だ。中でも優秀な部類に入るそうでガン患者の希望といわれている。多分マイペースなのだろう。先生の周りだっけゆったりと時間が進んでる。癒し系だ。
「とてもいいです。あ、口内炎ができたくらいですね」
「前にも説明したとおり、個人差や抗がん剤の種類によりさまざまな副作用があります。口内炎もそのひとつですよ」
「これからがつらいんですよね」
はは、と笑う。近くで見てきた分怖かった。あの苦しみを味わうのかと。
・