ワタシノタイヨウ

『あっ…そう言えば、ずっと聞こうと思ってて、聞きそびれてた事があったんだ。』


「ん…何?」


仕事の手は休めず、彼はちらっと私を見る。


『始業式の朝、桜の木の下で会ったじゃないですか。先生の家ってあの辺なの?』


私が家から駅までの道を歩いていた時、初めて彼と出会った。


あの日以来、朝彼の姿を見る事はなかったけど、なんだか気になっていた。


私が彼の横顔をじっと見つめていると、仕事をしていた手を止め、ゆっくり私の方へ向く。


私を見つめる彼の目はさっきまでとは違い真剣だった。


「あの日…学校へ行く前にサエの墓参りに行ってたんだ。」


『えっ…』


(そういえばあの辺りにお寺があったかも……)


「サエはオレが教師になる事、すごく応援してくれてたから…」


少し寂しそうに彼は微笑む。


「オレの家はあの辺から車で20分くらいのとこで、あの日は駅の近くに車止めてたんだ。戻りついでに時間があったから桜を眺めながら歩いてた。」


彼は窓の外に視線を移す。私は黙って彼の話しを聞いていた。


「あの頃のオレは、気がつくと何時間も空を見上げて、そして太陽とサエの笑顔を重ねていた。」


彼は私に視線を戻すと小さく微笑み、そして私の手の上に自分の手を重ねた。



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