ワタシノタイヨウ

『先生、ごちそうさま。すごくおいしかったぁ!』


「だろっ。」


帰りの車の中、私の言葉に嬉しそうに笑う彼を見ていると、こっちまで嬉しくなる。



でもだんだん家に近づくにつれて私は口数が減っていた。


なんだか彼と離れるのが寂しくて窓の外を見つめる。


「カスミ、どうした…」


私が静かになったのが気になったのか、彼は心配そうに声をかけてきた。


『ちょっと寂しくなって…』


「ば〜か、明日も会えるだろ。」


赤信号で車が止まる。


彼は私の方を向くと、私の手を握った。私はびっくりして彼の顔を見る。


「家着くまでこうしててやる。少しは寂しくないだろ。」


彼は照れているのか、すぐ前を向いて信号を見つめていた。


『うん…』


私は彼の手をぎゅっと握りしめ、彼に向かって微笑んだ。





『あっ先生、私の家すぐそこだから、ここでいいよ…』


彼はゆっくり車を止める。


『あの、送ってくれてありがと。あとラーメンもおいしかった。また連れてって下さいね。』


「あぁ…」


私たちは繋いだ手をなかなか離せないでいた。


『………』


「………」


車内に沈黙がはしる。


『じゃあ、帰るね…』


いつまでもここにいるわけにはいかないと思った私は、ドアに手をかけ外に出ようとする。


その時、開けようとしたドアを彼は手で押さえた。


『先生…?』


振り向くとすぐ近くに彼の顔が…私はそっと目を閉じ、そのまま私たちの唇は重なり合った。



*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*
< 127 / 156 >

この作品をシェア

pagetop