ワタシノタイヨウ
「カスミはここでじっとしてろ」


私の耳元でそう囁くと、頭をポンと叩いてドアへ向かう。


『先生…』


私が不安げな声で呼ぶと、彼は振り返りシーっと唇の前で人差し指を立てる。


「大丈夫だよ。」


そう言ってニコリと笑った。


私は気づかれないよう、その場にしゃがみ込みじっとしていた。



「青山先生〜いないんですかぁ?開けますよぉ。」


さっきより大きな声が響いた瞬間ドアの開く音が聞こえた。


「今井先生、声でかいですよ。聞こえてますから。」


ドアを開けたのは彼だった。少し呆れたような声で話している。


私はそれが目に浮かんで、笑いをこらえていた。



「いたんなら返事して下さいよ。それとも……」


今井先生の言葉を遮るように彼は話し出す。


「今井先生、何か用じゃないんですか?」


「あ〜はい、ちょっと英語の資料が必要で‥中いいですか?」


(えっ、中入ってくるの?大丈夫かな…)


私は不安になりながら、その場でじっと二人の話しに聞き耳を立てる。


「ええ、かまいませんよ。英語関係の資料は入ってすぐの…え〜と…この辺りにありますので。」


「あぁホントだ。ちょっと探させてもらいますね。」


(あ〜よかった。こっちには来ないみたいで。)


ほっと胸を撫で下ろす。が…次の瞬間ある事を思い出した。


『あっ、やば…』


私は小さく呟き、慌てて自分の口を手でふさぐ。


(椅子の上にカバンが置きっぱなしだ…。)


今井先生に気づかれないか再び不安に襲われる。



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