ワタシノタイヨウ
興奮気味の今井先生を、彼はじっと見つめると静かに口を開いた。


「今井先生…もしかして…」


彼の話しを聞く前に、今井先生は自分から話し出した。


「ああそうだよ。オレはまんまと信じてた女に騙され、裏切られたよ。しかも相手は生徒だった。」


私を捕まえていた腕の力が、わずかに弱くなる。


「彼女は結局オレを利用しただけだった。同級生に彼氏がいて同じ大学に行く為に、成績を上げたいが為にオレに近づき利用した…」


『今井先生……』


「まんまと騙されたってわけ。」


天井を見上げため息をつく。


その時、私の腕から手が離れた。


彼は咄嗟に私の腕を取り、自分の方へ引っ張った。


「カスミ大丈夫か…」


『うん…』


彼は私をギュッと抱きしめる。


それを見た今井先生は


「だから、お前らを見てるとイライラするんだよ!」


そう言って、私たちに背中を向けた。


私を抱きしめたまま青山先生が、今井先生の背中に向かって口を開く。


「事情はわかった…けど、それを理由にカスミや他の生徒を傷つけるのは違う。」


「オレは…他の奴らにも思い知らせてやりたかったんだ。裏切られた時の痛みを…」


今井先生は足から崩れ落ちるように、その場にへたり込んだ。


今井先生に先程までの勢いは感じられない。


「今井先生…あなたももう一度
誰かを好きになるといい。」


『先生…』


私が彼を見上げると、ニコリと微笑む。


「どうゆう意味だ…」


うつむうていた今井先生も、彼の言葉に顔を上げ振り向いた。


「あなたとは理由が違うけど、オレもずっと人を信じられず、人と関わらないようにしてきた…」


私を抱きしめる腕に力が入る。


「それじゃ何も変わらないし、前に進めない…でもそれでいいと思ってた、カスミと会うまでは…」

(先生……)


そこで私を一瞬見つめる。



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