ワタシノタイヨウ
今井先生に手を引かれどこかの部屋に連れて行かれた私は、


「ちょっと、ここで待ってて。」


と椅子に座らされ、彼は奥へと消えていった。


私は何も考えられず、じっと椅子に座っていた。


再び現れた彼の両手には、カップが握られている。


「はい、これ。」


今井先生にカップを手渡され、私はそれをじっと見つめていると、


「アップルティーだけど、飲める?」


そう言って私の顔を覗き込む。


「少しは落ち着くと思うけど‥」


彼はもうひとつ持っていたカップを口に運びながら、


「僕はコーヒーが苦手でね。今は紅茶に凝ってるんだ。」


そう言って微笑んだ。


私は無言のまま紅茶を一口飲むと口いっぱいに甘い香りが広がり、なんだか少しずつ気持ちが落ち着いてきたような気がした。


「少しは落ち着いたかな。」


今井先生は私を優しく見つめ話し出した。


「僕がぶつかったから泣いたわけじゃないよね。」


私はうつむいたまま、何も言えず黙って話しを聞いている。


もう涙は止まっていた。


「まあ、話したくない事もあるだろうから無理には聞かないけど、僕でも相談にのれる事があるならいつでも話し聞くから。」


うつむいている私の頭をポンポンと優しく叩いた。


今井先生の優しさが嬉しかったけど、相談出来るはずもなく、私はただ首を横に振っていた。


「…そうか。まあ、元気出せ。」


彼はちょっと淋しそうに笑い、今度は私の肩をポンポンと叩いた。



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