ワタシノタイヨウ

うつむいていた私は顔を上げ、励ましてくれる今井先生に精一杯の笑顔を見せた。


それを見た彼は嬉しそうに私の頬っぺたを軽くつねって、


「鈴原は笑ってるほうがかわいいよ。」


と言ってにっこりと笑った。


（うっ、今井先生って恥ずかしい事平気で言えちゃうんだよね。）


私は赤くなる顔を見られないようにうつむく。


そんな私を見て彼はクスクス笑った。


「もう遅いから、車で送って行こうか？」


笑いながら立ち上がる先生を見て、私はこれ以上迷惑はかけられないと思い、


『あの‥大丈夫です。一人で帰れますから。』


そう言って私も立ち上がり、ドアの方へ歩き出した。


私の言葉を聞いて、今井先生は少し残念そうな顔をして、


「そう…ほんとに平気？」


『はい。』


私はドアの前まで来ると、今井先生にお礼を言う為に振り返ろうとした。

その瞬間、後ろから両肩を掴まれ


「さみしくなったら、いつでもオレの所においで。キミなら大歓迎だから‥」


耳元でそっと囁くと、ドアを開け私の肩をポンッと押した。


私はびっくりして慌てて振り返ると、いつもの口調で


「気をつけて帰りなよー。」


今井先生は何もなかったかのように笑顔で手を振っていた。


（えっ、さっきのは何！？）


私が先生をじっと見つめていると


「ん、どうした。やっぱり送って欲しいのかな。」


そう言ってニッコリ笑う。

私は慌てて手を振り、


『いえ、大丈夫です。ありがとうございました。さようなら。』


そう言ってその場から逃げるように立ち去った。


（一瞬別人みたいだったけど…私の気のせい…？）


耳元で囁いた時の今井先生は、いつもの陽気な感じの口調ではなかった。


それに、あの言葉…。


（なんか怪しい…あんまり近づかない方がいいかもな…。）


私は歩きながらあらためて今井先生は苦手だと思い、あまり関わらないようにしようと決めたのだった。



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