ワタシノタイヨウ
私は彼の涙を見て、一瞬動きが止まった。


空を見上げ眩しく輝く太陽を真っすぐ見つめたまま涙を流す彼。


そして…ゆっくり下を向くと、声を殺しながら泣いていた。


膝の上に置かれた手はしっかりと握られ小さく震える。


(先生……)


前にも一度、彼が泣いている姿を見た私。


その時の私は、ただ彼の泣いている姿を見つめる事しか出来なかった。


でも………


今度は何の迷いもなく、私の足は自然と彼に向かって走り出していた。





彼は私の足音に気づくと、顔を上げこちらを振り向く。


「……鈴原」


私の名前を呼ぶと同時に、私は彼を強く抱きしめていた。


『先生、泣かないで…もう、一人で泣かないで。』


彼をギュッと抱きしめながら耳元でそう言う。


「…お前、なんで…」


彼は何か言おうとしたが、言葉にならずそのまま黙り込んだ。


しばらくして私は抱きしめていた体をそっと離し、彼の顔を見つめる。


そして彼の頬に流れる涙を、指で優しく拭った。


彼はじっと私を見つめていた。


『…私やっぱり先生の事ほっとけないよ。』


泣きそうになるのをこらえながら私は彼の目を真っすぐ見つめ続ける。


『先生の過去に何があったのかは私にはわからないけど…』


彼は“過去”と言う言葉に反応して、視線を地面に落とす。


『もう一人で苦しまないで…』


少し震えている彼の肩に私はそっと触れ、


『私がずっとそばにいるから。』


それを聞いた彼はゆっくりと首を横に振った。


「オレは…もう大切な人を失いたくない。失うのが怖いんだ。だから……」


彼はそこまで言って黙り込んでしまった。


私は彼の言葉を聞いてすぐに答えていた。


『私は絶対いなくなったりしない。ずっとそばにいるよ。』


私は彼の隣りに座り、握りしめている彼の手の上に、自分の手を重ねた。



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