ワタシノタイヨウ
彼はまた首を横に振ると、


「違う…違うんだ。オレは一人で生きていかなきゃいけないんだ。オレは太陽を失ってしまった…。守る事が出来なかったんだ。もう二度と取り戻す事は出来ない…。だから……。」


少し取り乱しながら、震える声でそう訴える。


『…先生、何があったの……』


私は彼の手をギュッと握りしめていた。


しばらく沈黙が続く。


(先生に何があっても、私の気持ちは変わらない…)


私は彼の言葉を待った。


彼は少し冷静さを取り戻したのかぼそりと話し始めた。


「お前は彼女に似てるんだ…。」


『…彼女?』


私は思わず聞き返していた。


彼は私の顔をチラッと見た後、空を見上げ眩しそうに太陽を見た。


そして静かに話し始める。


「大学の頃、付き合ってた彼女がいた。名前はサエ…」


彼は目を閉じ、その瞳の奥に彼女の姿を、思い出しているようだった。


「15の時、両親が離婚して親父に引き取られたオレは、仕事人間だった親父にかまってもらえず、毎日好き勝手して、自由に生きてきた。」


私は彼の話しを黙ってじっと聞いていた。


「毎日楽しいはずだった。けど…オレの心は少しも満たされなくて真っ暗で…ただ意味もなく毎日生きてる気がしてた。」


彼は私が握っていない方の手で、ポケットからタバコを取り出し、口にくわえると火をつけて吸い始める。


「大学2年の時サエと出会った。彼女は新入生で、オレ達のサークルに入ってきたんだ。」


タバコから出ている煙りがゆっくり空に昇って消えていく。


彼はぼんやりと、それを眺めながら続けた。


「なぜかサエは、いつもオレの隣りにいた。そしてお日様のような笑顔でオレに話しかける。…お前の笑った顔を見た時、彼女の笑顔とだぶったんだ…。」


そう言って私の方を見ると、彼は切ない表情で微笑んだ。



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