ワタシノタイヨウ
『もう来週から夏休みですね。』


「そうだな。」


彼はタバコに火をつけながら返事をする。


いつもなら待ち遠しい夏休み……


でも…今年はあんまり嬉しくなかった。


彼にしばらく会えなくなるから…


私のそんな切ない気持ちに全然気づかない彼は、フーっと空に向かって煙りを吐いていた。


『先生、夏休みは何してるの?』


彼はチラッと私を見ると、


「ん〜、普通に学校来てると思うけど。」


『えっ、ホント!』


(部活しに学校に来れば会えるかも♪)


私は嬉しくて思わず大きな声が出てしまった。


彼の横顔を目を輝かせながら見つめていると、


「まあ、毎日いるかはわかんないけどな。」


彼は横目で私の顔を見ると、私の考えを読んでいるかのように、意地悪そうに言う。


それでも私は夏休みも彼に会えるかもと思い、自然と顔がにやけてしまった。


そんな私の気持ちを知ってか知らずか、


「お前、ちゃんと部活行けよ。」


彼はそう言ってニヤリと笑う。


『もちろん、毎日行きます!』


私は立ち上がって両手を握り、勢いよく答えた。


彼は私の姿を見て、笑いをこらえている。


『な、何がおかしいんですかっ』


「いや、立ち上がって言うほどの事かと思って。」


クックと笑い出す彼を見て、急に恥ずかしくなり、私の顔はみるみる真っ赤になった。


私がしゅんとしてベンチに座り、うつむいていると、


「まあ、資料室で仕事してるからたまになら来てもいいぞ。部屋の片付けも終わってないしな。」


そう言って私の頭をポンポンと優しく叩いた。


私はチラッと彼を見てから、か細い声で聞いてみる。


『ホントに行ってもいいの?』


「ああ、かまわないよ。」


彼の声がとても穏やかで優しく聞こえたので、私は顔を上げ彼の方へ振り向いた。


そして彼の横顔を見ると、とても優しい顔で空を見つめていた。



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