ワタシノタイヨウ
私は先生が仕事をしている横で、夏休みの宿題をしていた。


『ねぇ先生、ここわかんないんだけど…』


横でため息が聞こえる。


「お前なぁ…。オレは物理担当だから他の教科聞かれても…」


『数学なら大丈夫でしょ。』


私がニッコリ笑って問題を指差すと、


「ったく、仕方ねぇなぁ。」


頭をボリボリ掻き、ぶつぶつ文句を言いながらも、丁寧に教えてくれる。


『ありがとっ、先生♪』


上機嫌な私の笑顔を見て、


「…まあいいか。」


ボソッと呟くと、私の頭をポンっと叩いた。




しばらく宿題をしながら、たわいもないおしゃべりをしていた。


ふとユウ君の事が頭をよぎる。


『ねぇ先生……』


「…ん?」


彼はこちらを見ずに、あいづちだけうち仕事をしている。


『一年生の授業って担当してたっけ?』


「いや、してないけど。」


パソコンを打つ手は止まらない。


(やっぱり…じゃあユウ君の用事って何だったのかな…。)


私はなんとなく気になったので、何気なく聞いてみた。


『先生、一年の神尾ユウ君って知ってる?』


パソコンを打つ手が止まった。


「……かみお…ゆう」


ゆっくり私の方を見る。


『うん。テニス部の後輩なんだけどね、なんか先生に用事あるって言ってたから、会えたのかなって思って。』


彼を見ると、どこか遠くを見つめていた。


『…先生?』


私は彼の顔の前で何度か手を振ってみる。


ハッと我に返った彼は、私を見ずに再びパソコンを打ち始めた。


「神尾なんて生徒、オレのとこには来てないな…」


『そっかぁ。ユウ君用事大丈夫だったのかな…。』


チラッと彼を見るとなんとなくいつもと様子が違う気がしたけど、あえてしつこく私から聞こうとはしなかった。



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