ワタシノタイヨウ
久しぶりに学校へ来た私は、部室へ行く前に彼の仕事部屋を覗きに向かった。


いつものように、部屋の前で一呼吸。


なんだか少しドキドキしていた。


(ちょっと緊張してきたかも…)


ドアを2回ノックする。


そっとドアを開きながら声をかけた。


『青山先生…鈴原でーす、いますかぁ。』


返事はなかったけど、彼の背中は見えた。


なんだかホッとする。


『入りますよ〜。』


私はもう一度声をかけてから中へ入った。


近くまで行き彼の横顔を見る。


『先生、久しぶりですね♪』


私は笑顔で彼の顔を覗き込むように話しかけた。


「ああ…」


なんだかそっけない返事が返ってくる。


彼はまだ一度も私の顔を見ていなかった。


なんとなくいつもと違う雰囲気を感じ、私はもう一度彼の顔を覗き込んだ。


『先生……?』


私が不安そうに声をかけると、こちらを向き優しく微笑みながら


「悪いな、今日はもう職員室に戻らないといけないんだ…」


そう言って彼は机の上を片付け始めた。


(えっ……)


私は彼の優しい笑顔に違和感を感じた。


彼のせわしなく動く手をじっと見つめながら、


『じゃあ今日はもうここには来ないですか?』


少しでも話しをしたかった私は、彼に聞いてみた。


「今日はもうここには来ないよ」


そう言って彼は立ち上がると、


「部屋閉めるから、ほら出て。」


私の背中を押しながら歩き出す。


私はそれに従って部屋から出て、鍵をかけている彼をじっと見つめていた。


彼に触れられた背中が熱い。


「これから部活だろ。早く行け」


私を見ずに手をひらひらと振った彼は、そのまま廊下を歩いて行ってしまった。


『あっ…』


私は彼の背中に向かって何か言おうとして手を伸ばしたけど、上手く言葉が出てこなかった。


(なんだか今日の先生変だった?気のせいかなぁ…)


私は心に小さな不安を抱きつつ、部活へ向かったのだった。



*‥*‥*‥*‥*‥*‥*‥*
< 93 / 156 >

この作品をシェア

pagetop